卒業論文  


 去年の暮れから追い込みに入っていた経済学部に通う息子の卒論がようやく終わったという。
 卒論のテーマは[農家として生きる 〜オリザの輪の中で〜]で、私たち日本人の大切な食料でもある
 おコメについて、これまでの稲作の歴史とコメのおかれている現状とその未来について、
 我が家の取り組みなども交えながら考えてみるというものだそうです。
 ということで、我が家の経営状況について色々と聞かれるままに答えたが、さすがに台所事情については、
 ちょっと抵抗がある。
 それに、我が家のことを取り上げて卒論ができるのかなとも思ったが、期日までに提出できずに卒業が
 出来なくなっても困るので、渋々、協力することにしました。
 途中、読ませてもらったが、内容のほうは、経済学というよりは農業経済学といった感じで、農学部の学生が
 取り上げそうなもののような気がするが、実際に自分が経験して感じたことについてまとめてみるというのも
 それなりに良いのかなと・・・。
 そんなこんなで、締め切り間近になってようやく完成したようだが、出来栄えのほうはというと、同じ大学の
 文学研究科に通う娘からは開口一番、“こんなんで良いの〜”とバッサリとダメ出し!
 今から書き直す気力も時間もなく、息子曰く、よっぽどひどくなければ受け取ってくれるそうなので、
 結局そのまま提出となったようです。
 そうして書き上げた卒論も出来の良いものは別にして、大部分は日の目もみずに大学の倉庫に直行となるの
 だろうけれど、『おいらの田んぼ』の場合は、出来不出来を問わず、学内はおろか全世界に向けて発信可能!
 せっかくなので、こちらに掲載しましたので、よろしかったらどうぞご覧下さい。
                                                     2008.1.15 記



卒業論文テーマ 「農家として生きる 〜オリザの環の中で〜」

東北大学 経済学部4年
学籍番号 A4EB1132
氏名 澁谷 崇志

文章中の「米」という表記は、特に断り書きのない場合は、アメリカ合衆国の略ではなく水稲(コメ)を指す。

―初めに―
かつて日本では、米は作った分だけ安定した価格で政府が買い取ってくれており、農家はこぞって多くの人足を使っ
てほかの家よりもたくさんの米を収穫しようと努力し、その結果として多くの富を得ることができた主業農家全盛の時
代もあった。しかし今となっては日本の食文化は多様化して米の消費量と価格は下がるばかりであり、これからはい
かに多くの米を作るかではなく、いかに少ない労力と費用で安定して高品質の米を作れるかが求められている。そこ
で節約できた時間を使って会社勤めなどをして、多くの収入を得る副業的農家が現在の主流(自給的農家も含めた
総農家数の約3分の1が副業的農家)となりつつあるのが現実である。

私の両親もかつては副業的農家であった。しかし、今でも農家である。
3年前に両親は時代の流れに逆らって、主業農家になることを選択した。正しくは、その頃に父が病気になったことに
加えて、景気が悪くなるにつれて主たる仕事としていた自営業からの収入が少なくなっていたために、自営業をやめ
て農業に専念することにしたのである。

それほど広大な農地を持っているわけではない。
体力的にも、今以上の面積を管理することはできない。
最新の作業効率のよい機械を購入できる資金もない。
どこに行っても高値で取引される、魚沼産コシヒカリを作っているわけではない。
今までの米作りでは絶対に利益を出せないことは明白だった。
しかしそれでも、両親は農業を選んだ。

私が生まれてからの22年間、農業を営む両親の傍らで育ち、両親と祖父とともに稲作に携わってきた。22年間の
中で稲作農家として過ごした時間はそれほど多くはないかもしれないが、そこから学んだことは多く、今の自分の多
くの部分を形作っている。

ここではその稲作の歴史を振り返りながら、両親が選んだ選択肢がどのような結果となるのか、農業の未来がどうな
ってしまうのか、これらを中心に考えていく。


第1部 米に関するア・ラ・カルト
「オリザ」とはイネの学名Oryzaであり、栽培稲はアジアのOryza sativa(オリザ・サティバ)と西アフリカのOryza
glaberrima(オリザ・グラベリマ)の2種類しかない。ただしグラベリマは一年生植物であり、普通イネという場合はサ
ティバの方を指す。
小麦、トウモロコシと並んで、世界3大穀物の一つである。
また「オリザの環」とは、1997、98年に河北新報で長期間にわたって連載された、世界で営まれる米の栽培と人
間生活を扱った企画の名前である。同社はこの企画で新聞協会賞を受賞している。

―世界の米の3分類―
米(サティバ)は、大きく下の3種類に分類される。



―日本の自然とともに育ったブランド米―
一口にジャポニカ米と言っても、日本国内で生産される品種は軽く500品種を超えるほどであり、それぞれに異なる
長所と短所を持っている。その中でも優れた特徴を持ったものだけが、生産者によって生産され、私たちの食卓に上
るのである。
以下は、堀末 登・丸山 幸夫(農業研究センター)氏による研究報告に一部補足を加えたものである。

米の食味に影響が大きいのは品種であり,産地,生産年,窒素追肥,収穫時期がこれに次ぐ。
良食味品種は東の「亀の尾」,西の「旭」にその起源を発する。品種の良食味の要因としては,第一に粘り,硬さなど
の物性が関与する。一般には,それがアミロースやタンパク質などの成分含量に起因する場合が多い。
品種的には,コシヒカリ系の良食味品種は粘りが強い。アミロース含量が低いものが多く,また,タンパク質含量も比
較的低い。ササニシキ系品種は,粘りがほどほどで,甘味がある。タンパク質含量はやや低く,アミロース含量もや
や低い。

環境と栽培条件は,米粒の生長・発達およびデンプン,タンパク質などの物質蓄積を変動させて食味に影響をおよぼ
す。
とりわけ、登熟期(収穫期の直前に当たり、受粉した稲が実を結び、米の粒が十分な大きさまで成長していく時期。
地域によって異なるが、宮城県ではだいたい8月後半から9月の前半)の気温は米粒のアミロース含量などデンプン
成分を変動させ,平均気温が23〜25℃の場合に食味が最良となる。登熟期間の日照が多く,気温日較差(一日の
うち、最高気温と最低気温の差)が大きい場合には米粒の生長・発達とデンプン集積が良好となり良食味となる。
国内産地では,適温域で,日照も良い時期に出穂・登熟させる品種を選択し,栽培管理を適切にできる地帯が良食
味産地の条件である。



上記の表のように、国内産米の作付シェアはコシヒカリが圧倒的である。これは、良食味米であること、すでにコシヒ
カリブランドが消費者に定着していることに加えて、コシヒカリが北海道と東北の一部を除く日本各地での栽培に適し
ているからである。
驚くべきことに、コシヒカリを含め上位10品種すべてが少なくともコシヒカリの孫に当たり、その遺伝子を受け継いで
いるものばかりである。
このように最近の品種は,この良食味米のコシヒカリを中心に品種改良がおこなわれており、食味のレベルは横一
線に、異なる表現をすれば没個性になってきたといえる。

現在では16位のササニシキであるが、1993年の大冷害までは長い間コシヒカリに次ぐ2位の作付面積を誇ってい
た。かつての宮城県の主力品種である。良食味・多収量で、コシヒカリよりも少ない粘りと上品な味に定評があり、土
地と天候に恵まれて生産されたときの食味は、魚沼のコシヒカリを上回るとされる。しかしササニシキは、耐冷性が
難(寒さにとても弱い)で、いもち病(いもち病菌と呼ばれるカビの一種に感染することによって、葉や穂が枯れ、生育
不良に陥ってしまう。感染源が菌である為、圃場の一部で病気が発生すると、広範囲に広がりやすく大幅な減収をも
たらすため、稲作で最も恐れられるもの一つである)に弱く、生育が天候に大きく左右される品種で品質のブレが大
きい。このため1993年の大冷害の際には、日本最大のササニシキの産地でありササニシキに偏った生産を行って
いた宮城県は、同年で最も悪い作況指数37という大凶作の年となってしまった。そして宮城の稲作はこの年を境に
して、耐冷性が極めて強くコシヒカリの血が濃いひとめぼれに作付けがシフトしていくこととなった。
以上のように、ササニシキはひとめぼれに比べ手間を要する作りにくい品種とされ、その食味を堪能するには、適地
はもちろん天候に応じたち密な栽培条件の設定が必要となる。とりわけ、近年のような異常気象下では栽培が難し
いと言われている。

なお、両親はひとめぼれを作付面積2.3haの70%で、ササニシキを残り30%の面積で生産している。県下の生産
者が作りやすいひとめぼればかりを生産しているのに対して、両親がリスクの高いササニシキをこれほどの規模で生
産する理由は、第4部後半で述べることにする。

―「コメ騒動」と外国産米―
また、近年の米に関連したトピックで消費者にとって印象深いのは、「コメ騒動」と外国産米の味ではないだろうか。
1993年に起こった「コメ騒動」を中心とした一連の出来事の中で、日本人の意識に深く根付くこととなった「タイ米
(外国産米)=おいしくない」という構図は、不運にも誤って認識されたものである。本来、日本で生産されている米
(ジャポニカ米)と海外で生産されることの多い米(インディカ米)とは、同じ米といっても根本的に特徴の異なるもので
ある。そのため、きちんとインディカ米に見合った調理法で調理しなければいけないところを、コメ不足というこれまで
経験したことのない状況の中で困惑し、正しい調理法を調べたりせずにジャポニカ米と同じ様に調理してしまったの
がそもそもの誤りであった。加えて、消費者と同じように予想以上の事態に困惑した、日本政府の要請の仕方にも問
題があったようで、要請を受けたタイ政府はそれまで備蓄していた全ての米(その中には古米や古々米など収穫か
ら時間が経って、品質が悪くなってしまったものが多く含まれていたらしい)を緊急支援として輸出したために、おいし
くないのも当然であった。
また、現在の日本人の感覚やイメージとして、ごはんは「白く、適度に粘り気があり、モチモチとした食感がある」の
が普通である。とりわけ戦後の食糧難を経験した人たちにとって白くないご飯は、粟や稗などといった混ぜ物中心の
おいしいとは言えないごはんを中心とした当時の貧しい食卓を強く思い出させるものであった。
そのように根強く複雑な時代背景を持った日本人にとって、初めて食したインディカ米が「(ジャポニカ米と比べて)白
くなく、粘り気がなくぱさぱさして」いたために、これまで食べてきた米のイメージがあまりに違いすぎた上、過去のつ
らい記憶と重なってしまったことで、インディカ米を簡単には受け入れられなかったと考えられる。

―本来のおいしさを引き出す、食材に合わせた調理方法―
そもそも、インディカ米はアミロースの比率がジャポニカ米よりもかなり大きいため、ジャポニカ米と同じように調理して
もあの食感を出すことはできない。そのためインディカ米を生産している地域では、湯取り法(水から茹でて、アルデ
ンテのように軽く芯を残した状態で湯から上げる)をしたものを使ってピラフやチャーハンのように調理して食べる、あ
るいは生のままの米を使ってリゾット状にして食べるのが一般的である。ごはんはほかの食材と一緒に調理して味を
つけて食べる、これがインディカ米の良さを生かしたおいしい食べ方である。
これまでの悪いイメージのあるインディカ米であるが、正しい調理法が日本に広く知られることで本来のおいしさが認
識されれば、タイ料理やベトナム料理などがこれまでよりも大きなブームになる可能性も十分にあり、日本の米とは
違った香りのよさを持つタイ米や、今まで味わったことがないような食味を持つ海外産米を日本の消費者が探し求め
るようになることも考えられる。


第2部 今、米を取り巻く環境
まずははじめに、米を語る上で欠かすことのできない、近年の農家経営に大きな影響を与えてきた生産調整につい
て触れる。そしていまなお進む米離れの現状を、今現在公表されている数字を基に、簡単な回帰分析を用いた将来
の予測を踏まえて、生産者の視点と消費者の視点の2視点から捉えることにする。

―生産者を悩ませる減反政策と生産目標―
ちょうど30年前の昭和53年(1978年)から平成15年(2004年)までの間に、稲作の機械化などによって供給過
多になり始めていた国内の米市場の需給バランスを整えるために、政府は生産調整という名目(減反政策)で一定
の面積を水稲から麦やトウモロコシなどの畑作作物へ変える「転作」を励行した。ただし、これはあくまでも義務では
なく、政府(JA)側は「もしこのまま米を作り続ければ米市場は著しい供給過多になり、米の価格は下落し続けて稲
作農家として生計を立てていけなくなりますよ。それを避けるためには、転作してほかの作物を作るしかありませ
ん。」と言って、転作目標面積の達成度に応じて補助金を給付したのである。
 

このように生産調整によって、2003年では生産調整前の4分の3の面積となり作付面積は着実に減少し続けてい
るにもかかわらず、冷害等の影響を考えなければ米の収穫量は安定している。その上、米の需要量の減少が下げ
止まらないために、政府の意図に反して、余剰米は増え続け米の価格は下がり続けるという現象が起こっている。
2004年以降の生産調整の手法は転作面積の配分から、生産数量の配分に転換した。つまり、都道府県ごと市町
村ごとに配分された数量のみJAや全農に出荷できるため、余分に作った場合は自分たちで販売あるいは消費しな
ければならない。したがって、自主流通経路を持たない多くの農家がしなければいけないのは、実質的に作付面積
の削減に他ならないのである。あるいはここ以降で述べるように「自主流通経路の確保」か、「品目横断的経営安定
対策への参加」であるが、これまで政府に頼った米作りをしてきた農家にとっては、どちらの選択肢を取ってもきわめ
て困難な道のりとなる。

―生産者の視点から―
生産者の観点からは農林水産省と東北農政局の統計資料、2005年農林業センサスを基にして、全国と宮城県内
の収穫量・稲作農家廃業数の予測を行う。
これ以降に出てくる作況指数とは、農作物の生育や収穫量の状況(作柄)の良し悪しを示す指標である。作況指数
=(10a当たり収量)/(10a当たり平年収量)
表3 作況指数一覧
作柄良やや良平年並みやや不良不良著しい不良
作況指数106以上105〜102101〜9998〜9594〜9190以下

水稲が生育不良になる代表的な要因としては、北海道・東北地方・関東地方の太平洋岸を襲う「やませ」や、九州を
中心とした西日本を襲う「台風」、長梅雨による冷害、空梅雨による水不足、酷暑による「高温障害」、冷夏による「不
稔」などが挙げられ、気温・降水量・日照時間といった気候の変化が水稲の生育に大きく影響を与えるのである。

日本における稲作を営む単一経営農家・準単一複合経営農家・複合経営農家数は1,298,920戸、水稲作付面
積が1,701,000haであるから、1戸当たりの平均水稲作付面積は1.31ha/戸となる。ただし、この値は2005
年農林業センサスのものであり、今現在では農家数・水稲作付面積ともにこの値よりも更に減少していることが予想
される。
次に1978年から2007年までの30年間の国内で生産された米の収穫量のデータから、回帰分析によって年間の
平均増減量を求める。Yを収穫量、Xを期(X=1,2,3,,,30)とする。単位は万トンである。

 
冷害ダミーなし
 
  (34.83043) (-5.37436)
 
 ここで、1980年(作況指数87)、1993年(同74)、2003年(90)は作況指数90以下の著しい不良の年となっ
ているため、これらの年にダミー変数( )を導入して再度回帰分析を行う。ただし厳密に言えば、これらの年が全て冷
害によって不作に陥っているわけではないが、あくまで便宜的にこのダミー変数に冷害ダミーと名前を付ける。

冷害ダミーあり
 
 (44.38319) (-6.92032) (-4.2828)
 

 冷害等の影響を排除するためにダミー変数を入れるも、それほど 値が上昇しなかった。これは、南北に細長く伸び
た日本の様々な場所で稲作が営まれているため、やませなどによって東北以北で局所的に発生する冷害による被
害や、西日本での台風の被害が発生しても、国内の他の地域の収穫でカバーされる一方、長期的な天候の変化
(長梅雨や水不足、冷夏や酷暑など)による全国的な豊作や不作に対しては、収穫量の総量が多いためにその増減
が地域以上に回帰分析の精度に強く影響を与えてしまうせいである。

 回帰分析の結果より、冷害等による被害の影響を除いた自然減少(農家数の減少、生産調整による転作・休耕)
によって、日本全体では年間平均で約101,782トンの収穫の減少が予想される。
 この結果を基に、10a当たりの平年収穫量(530kg/10a)、一戸当たりの作付面積(1.31ha)の値を踏まえる
と、面積にして年間平均で約19,204haの減少、農家数にして14,660戸もの稲作農家が全農地の他の作物へ
の転作あるいは農家の廃業を選択すると考えられる。

 次に両親が住む宮城県の推移を見る。まず、県内の一戸当たりの平均作付面積を求める。宮城県内の稲作経営
農家数は52,816戸、水稲作付面積は79,500haであるから、一戸当たりの作付面積は平均1.51haとなる。
日本国内のデータと同じく、宮城県の値も2005年農林業センサスのものであり、今現在では農家数・水稲作付面
積ともにこの値よりも更に減少していることが予想される。

 1978年から2007年まで30年間の宮城県産米の収穫量のデータから、回帰分析によって年間の平均増減量を
求める。Yを収穫量、Xを期(X=1,2,3,,,30)とする。単位は万トンである。
 


グラフ上の直線は、回帰分析に基づいた年間収穫量の近似曲線である。
冷害ダミーなし
 
  (18.71111) (-3.07461)
 

 しかし、このままでは冷害の影響が大きく、近似曲線の信頼度である が低くなっている。これより、冷害による被害
が発生し著しい不良の年となった、1980年(作況指数79)、88年(同75)、93年(37)、2003年(69)にそれぞ
れダミー1( )を適用し、その中でも被害が甚大であった93年にはさらにダミー2( )を適用した上で、改めて回帰分
析を行った。ただし、単位はすべて万tである。

冷害ダミー1のみ
 
  (33.52962) (-5.87215) (-7.63383)
 

冷害ダミー1&2
 
  (39.9652) (-6.8492) (-6.3479) (-3.566)
 
 これより、冷害による被害の影響を除いた自然減少(農家数の減少、生産調整による転作・休耕)によって、年間
平均で約5,413トンの収穫の減少が予想される。
 この結果を基に、10a当たりの平年収穫量(530kg/10a)、一戸当たりの作付面積(1.51ha)の値を踏まえる
と、面積にして年間平均で約1021.3haの減少、農家数にして676.4戸の稲作農家が全農地の他の作物への
転作あるいは農家の廃業を選択すると考えられる。

−消費者の視点から―
 消費者の視点から捉えたコメ離れの現状は、一人あたりの米の消費量(全国平均)の増減から調べることにする。
 農林水産省総合食料局「米の消費動向等調査」より、1999年度から2006年度まで8年間の、一人当たり月平
均精米消費量を基に、生産者からの視点と同様に回帰分析を用いて将来の変動を予測する。

 
グラフ上の直線は、回帰分析に基づいたデータの近似曲線である。

 Yを一カ月当たりの精米消費量、Xを期(X=1,2,3,,,8)とする。ただし、単位はグラムとする。

 
  (340.1108) (-15.2208)
 
 最新の調査年(平成18年度)のデータでは、一人当たり月に4,852gの精米を消費している。これは標準的な茶
碗一杯の量を精米90g(0.5合)とすると、月に約54杯分(1日当たり1.8杯)の米を食べている計算になる。
 ただし、この数値は全体の平均値であり、容易に想像がつく結果ではあるが米生産世帯と消費世帯とでは大きく
異なる結果となっている。平成18年のデータでは消費世帯の消費量が4,754gなのに対して、生産世帯は6,19
0g(一日当たり2.3杯)と約1.3倍も消費している。
 しかし、精米の消費量は手に入ったもっとも古いデータの平成11年(1999年)の時点では、全体として5,142g
もの米を消費しており(そのうち消費世帯では4,999g、生産世帯では6,596g)、現在のものと比較すると回帰分
析結果ベースで年間平均−0.88%のペースで消費量が減少している。

 また、生産者世帯と消費者世帯の減少速度を比較すると、生産者のほうが2割程度速い結果となっている。精米
の消費量からも分かるように生産者である彼らは、自らの生産物である米や野菜中心の食生活である。日本人の食
生活の変化はおよそ米の主食としての地位を脅かすものである。そういった影響によって、より主食としての地位の
高かった生産者世帯の米の存在感が、消費者世帯のそれよりも急速に薄くなっていったと考えられる。
 図3を見ると、平成18年度はそれまでに比べて消費量の減少速度がやや緩やかになっているようにも見えるが、
今の時点では消費量の減少に歯止めがかかり始めていると断定することはできず、やはり徐々にではあるが着実に
減少してきているというのが現実である。

―食文化の西欧化がもたらしたもの―
 生産者の観点から見ても、消費者の観点から見ても米を取り巻く環境は概ね芳しくない。その原因がどちらにある
かと問われれば、やはり日本人(消費者)が米を食べ(消費し)なくなった、と言いたいところである。それは、食の欧
米化の影響が最も強いと世間一般に広く認識されている。忙しい朝食にはご飯を炊く手間をかけずに、より手軽なト
ーストやシリアルなどで済ませる。ご飯は食べたとして、昼食に食堂などで食べる定食もののご飯や、コンビニ弁当
やおにぎりであろう。もしかすると、一時期よりも外食の少なくなった最近では、夜は比較的ご飯を食べるかもしれな
い。だがそれでもやはり多種多様な食事のバリエーションは、その数の多さの分だけ私たちの好奇心や食欲をそそ
り、より多くの刺激と満足感を与えてくれるのも事実である。そのようにして、日本の中に様々な文化が流入し日本
文化と融合していくに従って、日本人の米の消費量は減少している。

 かといって、食文化の多様化だけにこの米を取り巻く問題のすべてを押し付けてはいけない気がする。少なから
ず、これまで食管法などの保護政策に守られるばかりで政府に寄りかかってばかりいた生産者、一時しのぎの補助
金の給付や生産調整で、生産者の経営体力を奪い続けることになった政府、両者ともにこの問題の責任があるはず
である。


第3部 現状を打開するために。そして、失敗。
 冒頭で述べたように戦後は農地改革で自作農が増え、食管法の政府による米の全数固定価格での買い上げによ
って農家は生活の安定が保証されたことから、これまで以上に農業に意欲的に取り組むようになったことに加えて、
肥料や農業機械の導入による生産技術の向上から生産量が飛躍的に向上した。
 その一方で食文化の西欧化が進むことで米の消費量は漸減し、国内農業の保護が最優先とされたために国産米
の輸出が進むわけでもなく、政府と農家は国産米の供給過多と販売価格の下落に苦しむこととなった。

 このような現状を打開するために、日本政府によって米の生産調整制度(減反政策)の度重なる改訂や新食糧法
の施行による農業保護から日本の農業の競争力向上への方針転換、「品目横断的経営安定対策」などがこれまで
に行われてきた。
 
JA側からの要請にこたえる形で、農林水産省によってかねてより準備が進められてきた「品目横断的経営安定対
策」が平成19年度より施行された。日本の農業に新しい風を起こすことが期待される施策であったが、まず1年目の
結果としてはこの施策が抱える多くの問題点や日本の農業のこれからの不安をより浮き彫りにすることになった。

 この「品目横断的経営安定対策」ついて、より詳しく見ていくことにする。

―「品目横断的経営安定対策」とは―
 施行年月日―平成19年4月1日
 別称―水田・畑作経営所得安定対策(同年12月21日に名称変更)

 以下、解説パンフレット冒頭より抜粋。
「我が国の農業は、農業者の数が急激に減り、また農村では都会以上のスピードで高齢化が進んでいます。

一方、国外に目を向けると、WTO(世界貿易機関)の農業交渉では、国際ルールの強化などの交渉が行われてい
ます。

このような状況の中で、今後の日本の農業を背負って立つことができるような、意欲と能力のある担い手が中心とな
る農業構造を確立することが"待ったなし"の課題となっています。

そこで、これまでのような全ての農業者の方を一律的に対象として、個々の品目ごとに講じてきた施策を見直し、19
年産からは、意欲と能力のある担い手に対象を限定し、その経営の安定を図る施策(品目横断的経営安定対策)に
転換します。
(以下略)」

 農家人口の減少(平成2年・1388万人→平成17年・837万人)、都市部以上の急激な高齢化の進行(平成2
年・26.8%→平成17年・57.4%)、耕作放棄地の増加(平成2年・22万ha→平成17年・39万ha)と、第1部で
みた収穫量や消費量以外でも日本の農業の現実は着実に悪化している。ただ見方を変えれば、少ない人数であっ
てもそれほど体の無理が利かないような年齢であっても、十分に良質な農産物を生産できるほど農業機械による効
率化や簡便化が進み、耕作面積の減少をある程度カバーできるほど、生産技術の改良や発展によって毎年安定し
て多くの収穫を得ることが可能となっているのも事実である。

 以上のような事実を受けて、パンフレット冒頭の4段落目のように日本の農業の国際的な競争力を高めるために
も、これまでの政府によるある意味過保護ともいえる保護政策は転換すべきであるというのも、今の状況では必要な
のかもしれない。

―担い手の魅力と不安、そして高いハードル―
 実施にあたっては、地域ごとに何度か説明会やパンフレットを通して、そのシステム導入の利点や補助金に関する
ことが説明されていた。経営安定対策の言う「担い手」とは、これまで日本の農家の大半を占める小規模経営農家を
地域あるいは集落ごとに集約し、北海道・アメリカのように経営規模を拡大することによって、低コスト・高収量・高品
質生産といった高い生産効率を目指すというものである。そして、それまで一律的に給付していた補助金助成制度を
改定し、安定対策に明記されているいくつかの条件を満たした意欲と能力のある「担い手」には補助金を支払う、とい
うものであった。

 しかし、下表1は平成18年時点での集落営農組織・団体等に属していない、一般生産者の生産費及び収益性を
まとめた表であるが、生産費(副産物価額差引)と粗利益の差額を見ると、10a当たりで3,189円の赤字であり、
支払利子等のマイナスを繰り入れると赤字の額はもっと大きくなる。さらに、宮城県内で生産された「ひとめぼれ」や
「ササニシキ」の出荷による粗利益は全国平均よりも低く、物価の違いはあっても、宮城県の農家はより一層苦しい
経営を迫られることが考えられる。これは県内の収穫量が生産数量配分を超えて生産されていること、宮城県内で
生産される8割以上がひとめぼれであることによる市場の飽和が原因である。


 そして、補助金の給付を受けることでその赤字をこれまでは何とか解消することができたが、この政策によって、全
体の多くを占める耕作面積が2ha前後の農業従事者は、以下の「担い手」になるための要件(特に経営規模の制
約)を満たすことができない為に補助金が受けられなくなり、農業を続けること自体が不可能になってしまう人も大勢
いる。そのため、地域ごとに急ピッチで集落営農への参加を検討することになったのだ。

 経営安定対策の核ともいうべき、「担い手」になるための要件は、
1.農業経営改善計画の作成
(ア)以下の事項について、5年後の目標をその達成のための取り組み内容を記載する。
@経営規模の拡大
A生産方式の合理化(農業生産のムダを省く)
B経営管理の合理化(コスト管理の徹底)
C農業従事の態様の改善(労働時間の削減)
(イ)市町村へ申請し、
@市町村基本構想に適しているか。
A農用地の効率的・総合的な利用に配慮しているか。
(生産調整に取り組むことが必要)
B達成できる計画であるか。
以上の認定基準を満たしていれば、「認定農業者」になることが必要である。
2.一定以上の経営規模(耕作面積)を満たしていること
ただし、国が定める環境規範を遵守すること、対象農地を農地として利用する(耕作する)ことが必要である。
(ア)認定農業者(個人営農者):4ha以上(北海道は10ha以上)
(イ)集落営農組織:20ha以上
注・集落営農組織に関しては、法人化することで「認定農業者」となることができる。(法人化の申請の一部が、1.
の申請に当たる。)
実際には、集落営農組織に関する細かな条件が存在するが、ここでは特定農業団体となるか、これと同様の要件を
備える必要がある、という表現にとどめる。
要は地域の農地を集約し、将来的に安定した経営を行える規模・資本を有していること、である。
の2点が大きなものである。

 また、支援(補助制度)の変更点に関しては、
それまでの品目別の価格政策ではなく、経営全体に着目した政策に一本化
とし、
1.諸外国との生産条件格差から生じる不利を補正するための補てん
<生産条件不利補正対策>
(ア)過去の生産実績に基づく支払
(イ)毎年の生産量・品質に基づく支払
2.収入の減少の影響を緩和するための補てん
<収入減少影響緩和対策>
と変更された。

―性急な変革は混乱をもたらした―
 このように、それまでの保護政策から一変して、日本農業の競争力を向上させようと政府はこれまでにないほど大
きく舵を切ったわけであるが、2007年11月8日付の日本農業新聞に「集落営農4割が赤字」とあるように、成功し
たのはかねてから集団で農業を行っていたごく一部の先進者たちであって、集落営農組織の半数近くが赤字になる
という結果と多大な混乱を全国の農家にもたらしてしまった。
 無論、組織化した初年度から多くの利益を上げるのは不可能であろうが、それでも多くの集落営農組織が、このよ
うな複雑な条件をすべてクリアして「担い手」としての農業経営の開始をあまりに急いでしまったために、採算に見合
わない規模の大型農業機械の導入や高額の設備投資を行ったことが原因であった。
 この事実を受けて、経営計画の見直しはもとより、「品目横断的経営安定対策」という名称から、より分かりやすい
「水田・畑作経営所得安定対策」という名称への変更、制度への加入条件の緩和、またそこから派生して生産調整
の取り組みの強化など、農業政策改善の動きが活発になっている。


第4部 ある稲作農家が選んだ道
 「品目横断的経営安定対策」は施行以前から、その有効性が疑問視されていた。その混乱も含めて現在に至るま
での政府主導の農業政策に対して疑問を抱いてきた者は多く、そういった稲作農家がこれまでとは違う方法で生産
者として生きる道を模索し始めた。それは自分たちが生産した米を自分たちの手で販売する、産地直送販売を行う者
たちが徐々に増えてきている。
 ここでは、集落営農には参加せずに、彼らのように産地直送販売によって新しい可能性を見出そうとした私の両親
と、その根拠となった米の流通システムを取り上げる。

―生産者の顔が見えない、消費者の顔が見えない―
 まず、米の流通システムを詳しく見てみる。説明の簡単化のためにあえて平成16年から施行された新食糧法以前
の枠組みを説明する。
 食糧法の下で市場を流通する米には、計画流通米と計画外流通米の2種類がある。
それぞれが異なる流通経路を経たのち、消費者のもとへと届く。

以下は、流通経路中の語句の説明である。
・計画流通米―政府米及び自主流通米に分かれる。消費者の必要とする米を計画的かつ安定的に供給するための
流通ルートである。
・計画外流通米―生産者が自分で食べる米、親戚・知人や小売店へ直接販売している流通ルートである。食糧管理
法施行(1994年12月14日施行)以前は、計画流通米以外のもので自家消費米以外は原則的に禁止であった。し
かし、図1の収穫量の推移にも見られるように1993年に日本を襲った冷害によって、日本各地が記録的な不作に
陥ってしまった。このとき、当時「平成のコメ騒動」と呼ばれる騒動と対になって「ヤミ米」と呼ばれる計画外流通米が
度々問題になった。
・第一種・第二種登録出荷取扱業者―県下JAや経済連等、米を生産者から集荷する業者。
・自主流通法人―玄米価格(60kg単位)を入札によって価格形成する機関である。
・登録卸売業者―経済連等、米の卸売ができる業者である。
・登録小売業者―スーパー・米屋等、米の小売ができる業者である。

  図5 新食糧法以前の流通経路
 

 現在の新食糧法下では、計画流通米と計画外流通米のあいだに厳密な区別はなくなってはいるが、生産者は収
穫前にあらかじめJAへ出荷する数量を申請しその通りに出荷しなければならないため、形としてその名残が残って
いる
 またその他の新食糧法施行後の変更点としては、自主流通米価格形成センターの名称が全国米穀取引・価格形
成センターと変更となり、価格決定プロセスにも変更があった。
・新食糧法施行前―有名ブランドや取扱量の多い銘柄に関して、農業保護の観点から米の最低価格のラインを維持
するために「目安の価格」決めてきた。
・新食糧法施行後―新食糧法施行を受けてこれまでの食管法・食糧法に則った農業保護の方針を転換し、産地や
銘柄、取引量、品質・等級を基に競争原理を取り入れた市場価格を決定する。入札への参加は完全な登録制となっ
ている。

 そもそも米の流通システムは、生産・集荷・セリ(卸売価格の決定)・卸売・小売といった流れのように、他の農産物
と同様に複数の段階を踏んだ上で消費者の元へと届く。このようにして消費者のもとへ届く頃には、一部の例外を除
いて、そのほとんどが多くの中間マージンを含んだ生産者のわからない生産物となってしまっている。消費者が手に
する米は、いろいろな人が異なる環境で作った同じ銘柄のブレンド米になってしまっているのである。そしてなにより
も、生産者の出荷価格がとても安くなっているという現実が、生産者たちの頭を悩ませている。

―この厳しい状況を打破するためにできること―
 実際にこの一年だけ見ても、宮城県産のひとめぼれ・ササニシキ60kgのJA出荷価格は1万2千円(平成18年
産)が1万1千円(平成19年産)となり、米の出荷価格は大きく下がり続けている。

 自分が作った商品を同じ価格で消費者に提供し、そこからより多くの利益を得るためには、生産コストを削減する
か、流通コストを削減することが考えられる。
そこで考えるのが、流通経路を変更し新食糧法以前で言うところの計画外流通米へシフトすることで、より利益を上
げる方法である。単純に販売価格だけで見れば、宮城県産ひとめぼれ玄米60kgでJAへの出荷額が1万1千円、こ
れを消費者に直接販売するとおよそ倍の2万円前後(販売に係る費用は除く)で販売することができるのである。米
の販売収入が2倍になれば、それまでの苦しい農業経営はだいぶ楽になる。
ただし、この方法には問題もある。米の生産と言っても、その過程ではJAや地域のほかの生産者との協調が必要で
あり、自分の力だけでは到底成り立つものではないからである。そのように地域での生産調整等を無視することは不
可能なのである。

 そのように限られた条件でも可能であるのが、無農薬栽培や有機栽培の高付加価値商品の販売である。これまで
はJAに出荷する場合に重要となるのは、米の品質を表す等級のみであり、たとえ無農薬栽培した米を出荷したとし
ても、等級が同じであれば普通に生産したものと価格は同一であった。しかし、食糧法によって流通自由化が解禁に
なったことがこの状況を一変させる布石となった。
 消費者は近年の肉骨粉や産地偽装問題を経験して、食の安全に対する意識が大きく向上したのである。そこに着
目した一部の生産者や販売者たちが、そういった消費者の意識にマッチした無農薬栽培や有機栽培の農産物を、こ
れまでにない高付加価値商品として売り出して成功しているわけである。

―産直販売方式導入後、2年目の成果―


 表5は、平成18年度の澁谷家の大まかな収支をまとめたものである。この年はJAへの出荷に加えて、インターネ
ットを用いた産直販売を組み合わせた販売を行って2年目であった。インターネット販売分は、前年度の売上の好調
さを考慮して、総収穫量の25%程度を配分した。販売品目は減農薬・減化学肥料栽培のひとめぼれとササニシキを
中心に、無農薬・無化学肥料のものも販売した。価格は、他の産直販売価格を考慮して同等の価格、ひとめぼれよ
りもササニシキの方が割高で、減農薬米は普通米の1割増、無農薬米は普通米の2割増程度の価格を設定した。1
kg当たりで考えると、JA出荷額は200円、スーパー等での販売価格は380円前後、ネット販売価格は400円前後
となる。

 18年度の販売結果を見ると、新米の収穫前には予定販売数量を完売することができ、償却額分を考慮しなければ
わずかながらも利益を出すことができた。これがもしも、産直方式をとらず、収穫量の全数をJA出荷としていた場合
は、収入は220万円となり償却額を除いた生産費とほぼ同額となってしまっていた。それでも以前は、副業による収
入で生活に必要な金額を捻出することができていたが、農業だけで生活していくには、もう少し利益を出す必要があ
る。

 販売動向としては、計画当初の予想通り、今では生産量の少なくなったササニシキに人気が集中する形となった。
第1部でも述べたように、ササニシキは生産量は少なくなったものの、その味わいはコシヒカリ系の品種とは明らか
に異なり、条件さえそろえばコシヒカリを超えるとさえ言われる。また、その希少性から一部では「幻のコメ」とまで言
われており、関東圏を中心にコシヒカリ並かそれ以上の人気を誇る品種である。
 産直方式の導入に際して、両親は以前からササニシキも生産しており、栽培に関するノウハウは十分に蓄積され
ていたため、その人気に注目してネット販売向けにササニシキの作付面積を拡大したというわけである。
 もちろん、産直サイトを作ってお客様をただ待っていただけではなく、宮城県から無農薬栽培や減農薬の認証を受
け、無農薬栽培・有機栽培の農産物を扱うサイトに登録し、ブログ上でも自分たちの米作りに関する情報を提供する
などして、できるだけたくさんの人に自分たちの米作りを知ってもらい、消費者から生産者の姿が見える産直サイトを
作っていった成果でもある。

―これからの取り組み―
 今年で産直販売開始3年目ということもあって、定期的に購入してくれる常連客も増え、ある程度売り上げを予想す
ることも可能になってきている。そこで農業単体での安定した生活のためにより利益を上げるためには、現状ではサ
サニシキの生産・販売量を増やすことが最も簡単な方法と考えられる。しかし、ササニシキの耐冷性の弱さゆえに、1
993年の二の舞になるわけにもいかない。かといって、リスク分散のためにササニシキを今以上に生産せずに産直
販売量を増やせば、コシヒカリ系のひとめぼれの売れ残りが心配される。

 もしも今以上に利益を上げようと考えるならば、作付面積を増やすか、ササニシキよりもリスクが少なくおいしい米を
作るしかない。
販売動向などをみると、どうやら消費者は無農薬栽培であるかどうか以上に、ササニシキのように希少性がありなが
ら、いままでの主力品種であるコシヒカリとは異なる食味をもったブランド米への関心が高いようである。そのような生
産者と消費者のニーズにこたえるのが、ササニシキBLやミルキークィーンといった、近年開発された新しい品種であ
る。

・ササニシキBL―愛称として「ささろまん」という名前がある。BLとはいもち病の英名Blast diseaseの頭文字2字をと
ったもので、ササニシキよりもいもち病に強い。
・ミルキークィーン―コシヒカリの突然変異種であり、コシヒカリに比べてアミロースの比率が5分の3と低く、粘りが強
い。冷えても硬くなりにくく、劣化しにくいため、白飯、炊きこみご飯、おにぎりなどにとても適している。そのほかの性
質はコシヒカリと同一。   近年、もっとも注目を集めている品種の一つ。高値で取引されている。
 
このように日々品種改良は行われており、さまざまなお米が生まれている。これから農家として生きていくためには、
少しずつ実験的にでも、その中から土地や気候に合った品種を生産して、新しい可能性を模索していくことが必要に
なるだろう。
 
ただ、両親は最低限生活に十分な収入さえ得られれば良いと考えており、新しい品種の生産に対しては慎重であ
る。身体的にももう無理がきく年齢でもなく、昔のように必死になってお金を稼ぐという意識はほとんどない。農業でも
っと収益を上げようと考えるのではなく、それ以上に祖先から受け継いできた田んぼという財産を大切に守りながら、
直接、お米の注文をいただくお客さんとのつながりを大切にしながら、今の自分でもできる稲作に「生きがい」を感じ
ているのである。
 仕事をするということは、もちろん生活していく上でとても重要なことであるが、特に両親のように親としての義務を
果たした人などにとっては、仕事とは「生きがい」というそれ以上の価値を見出すものになるのかもしれない。


第5部 結論
 ここまで見てきたように、出荷をJAに頼り集落営農にも参加しない農家は、稲作から得られる収入だけではたとえ
継続して補助金の助成を受けられたとしても、支出超過に陥ってしまうことは避けられない。今後、いっそう作業の効
率化が進んでより少ない手間でより高品質の米を作ることができるようになるかもしれないが、それでも確実に限界
は存在する。副業的農家として生きるか、産直販売を取り入れて主業農家として生きるか、完全に農業をやめてしま
うか。少なくとも今は、皆その中から選ぶ時間的余裕は有している。
 
 その一方で、世界の米の生産地でも農業技術の発展も同時に進んでいる。世界でトップクラスの米の輸出国であ
るタイ・インド・ベトナム・パキスタン・中国などの国々が、農業技術の発展により高収量で高品質の米が生産できる
ようになれば、日本の細かく分割された狭い田ではそれらの国々のコスト競争力にはかなわないだろう。
 また、「外国産米では,中国産米はかなり日本品種に近い食味を示している。アメリカ,オーストラリア産米の食味
は,日本のコシヒカリより劣るが,日本晴クラスといえそうである。熱帯アジアの米は日本のコシヒカリにはおよばな
い。
中国では,日本が継続的に米を輸入することになれば,将来は良食味米の供給も可能となろう。アメリカでは,アー
カンソー州においては,かなり大量規模で,日本晴並の良食味米生産の可能性があると考えられる。オーストラリア
においては,水の供給量問題が大きい。熱帯アジアにおいては気象的に日本人の好む良食味米の生産は困難であ
ろう。」
堀末 登・丸山 幸夫(農業研究センター)による研究報告
とあるように、中国を中心に日本向けの良食味米の改良・生産が進み、食の安全に対する不安が解消されることに
なれば、国内産米が完全に中国産米に取って代わられることも有り得ない話ではない。

 日本の稲作を取り巻く環境は、内も外も不安要素で満ち満ちている。
 それでも日本の稲作農家が農家として生き続けていくためには、農家として生きることに「生きがいと働きがい」を
感じることができなければならない。政府に頼るばかりでなく、自分たちで考え、自分たちで行動し、そんな現状を何
とか改善しようとする意識がもっと必要だと考える。
営農組織でたくさんの利益を上げる経営モデルを作りたい。個人でも自分が丹精込めて作ったお米を、おいしいと言
って食べてくれる人に届けたい。田んぼという受け継いだ財産を守っていきたい。日本の田園風景を残したい。
 様々な米作りに対する熱い想いが、日本の農業を支えるのだと思う。
そしてできるならば、農業だけがもたらせる喜びを未来に残したい。農業だけで十分に生活できるように日本と従事
者が変わらなければ、将来若い世代に農業に就こうとする意識は芽生えず、今の農業を支える高齢の農業従事者
がいなくなってしまったら、日本の農業の未来すら崩壊してしまうだろう。
 1人でも多くの子供たちが日本の農業を担い、日本に私たちを育んできた多くの田園風景を残していけるように、制
度を変え、意識を変え、政府と人々が本気で行動を起こさなければならないのだと思う。




参考資料
HP(順不同)
おいらの田んぼ(http://www.oiranotanbo.com/)
農林水産省(http://www.maff.go.jp/)
総務省 統計局(http://www.stat.go.jp/)
東北農政局(http://www.tohoku.maff.go.jp/)
中央農業総合研究センター(http://narc.naro.affrc.go.jp/)
河北新報社(http://www.kahoku.co.jp/)
全国米穀取引・価格形成センター(http://www.komekakakucenter.jp/)
宮城県庁(http://www.komekakakucenter.jp/)
農業環境技術研究所(http://www.niaes.affrc.go.jp/)
米穀安定供給確保支援機構(http://www.komenet.jp/)
JA静岡経済連(http://www.komenet.jp/)
中国四国農政局(http://www.chushi.maff.go.jp/)
商経アドバイス(http://www.syoukei.net/)
日本農業新聞(http://www.nougyou-shimbun.ne.jp/)
米辞典(http://www.iy-place.com/)
農業・食品産業技術総合研究機構(http://ineweb.narcc.affrc.go.jp/)
米・食味鑑定士協会(http://www.syokumikanteisi.gr.jp/)
お米の学習(http://www.tamagawa.ac.jp/SISETU/kyouken/rice/index.html)
クボタ(http://www.kubota.co.jp/)
タイ・スクウェア(http://www.thai-square.com/)
国連食糧農業機関 FAO(http://www.fao.org/)





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